はじめに~「烏爺」と呼ばれて~
僕の運命は、約旭年前のある大きな出会いによって、大きく変わりました。
その出会いとは、動物のオークション会場でレスキューした一羽のオウムとの出会いです。
このオウムが、僕たちの運命を大きく変えました。
このオウムは、オークション会場で誰にも相手にされず、「処分」すなわち殺される予定でした。
しかし、僕が運命に導かれるように、間一髪でレスキューしたのです。
このオウムのレスキューをきっかけとして、僕の中の何かが変わり、当時、経営していたペットショップの売上の柱である生体(烏)販売の中止を決定しました。
すると、「生体(烏)を販売しないペットショップなんて、どこに魅力があるの?」
そんな声が一変鳥家の皆さんから聞こえてきました。
たしかに生体販売を中止すれば一気に売上がダウンします。もしかしたら、お店の運営そのものも危うくなるかもしれません。
それでも僕たちの気持ちは変わりませんでした。
さらに「人、烏、社会の幸せのために」という理念を掲げて、TSUBASA(現・認定NPO法人)を設立しました。
TSUBASAでは、飼えなくなった烏をレスキューし、新たに理解ある里親さんを探す活動や飼い烏の啓蒙活動を行っています。
僕たちの運命を大きく変えた一羽のオウム。
そして、このオウムとの出会いがこの本を生み出そうと考えるようになったきっかけでもあります。
もう25年以上のつきあいになるオウムですが、一緒にいると、鳥というよりも、ひとりの人間といるような錯覚を覚えることがしばしばあります。
このオゥムとの生活をはじめた当初は、それまで飼い烏専門店を経営していたとはいえ、烏好きの素人に過ぎなかったのか、わからないことばかりでした。
お客様の相談に自信なく答えていると、このオウムはいちいち口出ししてきます。
「YeS」「NO」がはっきりしていますので、特に間違えたことを言うと、「違うⅡ」と言わんばかりに大きな声で鳴いて教えてくれます。
そのおかげで、お客様の相談にも、それなりにお答えできるようになりました。
オウムとのやりとりはこんな感じで始まりました。
このオウムはいつも何かブッブッしゃべっています。
独り言なのか僕に話かけているのか、最初は全くわかりませんでした。
でも、ある時オウムが発する音を意識的に聞くと、内容が理解できたのです。
いわゆる「暗号」みたいなものでしょうか!?
この「暗号」が解けたおかげで、僕はオウムと会話ができるようになりました。
そして、いつしか「烏爺」と呼ばれるようになったのです。
オウムとの会話の中で、気づかされたことがあります。
それは僕たち人間と烏たちの気持ちには、大きなギャップがあるということです。
とくに烏を手放した飼い主さんと、手放された烏の気持ちのギャップはとても大きいものです。
最初から手放すつもりで、烏を迎えた飼い主さんはどこにもいません。
烏と一緒に生活していく中で、いろいろな問題に直面し、最終的に手放さなくてはならなってしまったのです。
その原因は何でしよう?
手放さずにすむ方法はなかったのでしょうか?
この本の出版が決まったとき、僕はこのオウムに相談しました。
オウムは「自分に書かせて欲しい」と言ってきました。
今までいくつものペットショップをたらい回しにあった経験をぜひ活かしてほしいと。
そして、オウムは「烏の気持ちが一番わかるのは自分だ」と主張して譲りません。
とくに自分と同じ過ちは、歩ませたくないと強く懇願されました。
さすがの僕も根負けしてしまいました。
その原因は何でしよう?
手放さずにすむ方法はなかったのでしょうか?
というわけで、この本はオウムの言葉を僕が書き上げたものです。
本邦初!オウムの言葉で書かれた飼い烏の本。
この本は、語り手であるオウムが、同士ともいえる自分と同じような境遇にある飼い烏に対して、アドバイスするように語りかける言葉を綴ったものです。そうすることが、烏の生の声、本音を表現する一番の手段だと考えたからです。
烏の立場から書かれた「烏のきもち」を一変鳥家の皆様に理解していただき、一羽でも多くの烏や一人でも多くの飼い主さんが幸せになれることを祈ります。
本書は飼育本ではありませんが、烏の立場から「烏のきもち」をくみとっていただき、一緒に暮らしている(これから暮らそうとしている)烏たちと飼い主さんのためにお役に立てればこの上ない幸せです。
そして、一羽でも多くの烏や飼い主さんが幸せになれることを祈ります。
本文では、烏のきもちになっていただくために、「私」はレスキューしたオウムで、「あなた」は烏という設定で書いています。