第5章 鳥のしあわせ 鳥のきもち「名前には愛をこめましょう」

私は自分の名前が嫌いでした。
今の施設に引き取られてから気づいたことがあります。
自分の名前を得意げにおしゃべりする鳥がいます。
それも意外にもたくさんいました。
私の場合は他の言葉はおしゃべりできても、自分の名前は言いません。
いや言いたくないのです。
そんな鳥が多いのかと思っていましたので。
私の場合、どうして名前をおしゃべりしないかと言うと、自分の名前が嫌いだからです。
「素敵な名前なのに……!?」
よく言われます。でも嫌いなものは嫌いなのです。
名前は自分で付けることができません。飼い主さんに委ねるしかありません。
飼い主さんはお迎えしたばかりの鳥さんに、どんな素敵な名前をつけようかと思いを馳せます。
いつまでの健康であってほしい。
優しい子になってほしい。
たくましい子になってほしい。
など、思い思いの名前をつけたでしょう。
でも、その名前が嫌いとは? 一体どうしてでしょうか?
私の場合ですが、名前を呼ばれるときは叱られるときだったからです。
鳴き声がうるさいときに大きな声で名前を呼ばれる。
かみついたとき私のことをにらみつけながら名前を呼ばれる。
毛引きをしているときに名前を呼ばれる。
このような名前の呼ばれかたが多かったのです。
たしかに叱られることをしていたので、当時としてはしかたがなかったのかもしれません。
でもそれが「叱られる」=「名前を呼ばれる」という方程式で結ばれてしまうと、叱る言葉は名前というようになってしまったのです。
叱られる言葉をどうしておしゃべりしますか。絶対嫌ですね。
だから私の居る施設で名前を連呼する鳥のきもちがわかりませんでした。
そこで、その鳥に聞いてみました。
「どうして名前をおしゃべりするの?」
すると、「名前を呼ばれると良いことがあるの」
とうれしそうに答えてくれました。
「良いこと」……これはご褒美であったり、飼い主さんがやさしくなでてくれます。
自分の名前が好きになるか嫌いになるかは、呼ばれたときに「良いこと」が起こるのか、「悪いこと」が起こるのかの違いだったんですね。
幸いにも今の施設に来てからは、お客様が私の名前を呼んでくれます。
ご褒美はありませんが、お客様の笑顔をプレゼントしていただけます。
私もそろそろ自分の名前をおしゃべりしてみようかな、とそんなきもちになってきました。

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